仙人池 / 五色ケ原から薬師岳

栗林 久美子 (琴平)

 この会に入って40年ほど。多くの山を訪れる機会に恵まれました。何処が一番という事はなく、“行きたい”と望んだ山へ行けた時こそ嬉しいものです。自分には叶わぬと思っていた“下の廊下”を歩けた事で望めば行けるかもしれないと欲が出て、まず浮かんだのは“仙人池”

 ここは以前、雨で剣沢から撤退したことでもあり、ぜひにも行きたい候補地です。天気図をにらみながら友人と二人で強行。

 東京から夜行バスで室堂へ。沢の中を行くような雨の雷鳥坂を剣沢へ。前日からの雨で二俣の四ノ沢が増水したら渡れないという事態も考慮しながら、小屋の御主人の“大丈夫”の声に押されて出発。懸念した剣沢雪渓はアイゼンの必要もなく、平蔵、長次郎雪渓も写真より小さく見えました。真砂沢ロッジから二俣までは鎖、梯子ありの河原を行き吊橋を渡り仙人新道へ。藪の中の細道はかなりの急登。三ノ窓、チンネ、八峰が見えます。急登に音を上げた頃、仙人池ヒュッテの赤い屋根が見えてきます。これで又、頑張れます。まもなく仙人峠。左にとって“池の平”へピストン。往復一時間半程。雨で“池の平”散策を断念し仙人池ヒュッテに戻り念願の“池に映る八ツ峰”小雨の中、魅する様に水面にその姿を映す。


“五色ケ原から薬師岳”

 奥山さんの同行を得て立山駅まで車で出発。一ノ越で一泊。翌日は歴史に名高い“ザラ峠”を過ぎると五色ケ原まで花が素晴らしく、見渡す限りに続くコバイケイソウの群生を登り切ってしまうのが惜しくて木道の続くお花畑をゆっくり進みました。ハイマツの中を抜けると花と池塘の点在する草原の中に五色ケ原山荘が建っていました。夜半からの雨で、迷いながらも晴れの薬師に期待をかけ、ここで停滞。翌日も雨の越中沢、スゴの頭へと進み小屋に着いた時はずぶ濡れで一万円札も濡れました。夕方から晴れて小屋のテラスから“赤牛岳”が大きく見えました。

 快晴の朝がやって来ました。薬師を目指して小屋を出ると、そこは花を抱いた明るい草原。この山域全体がお花畑の様です。間山に着くとここからは砂礫の稜線を一直線に高度を稼ぎます。北薬師が見え、左手に金作カール、右手に太郎小屋が見えてきます。薬師までは大きな岩を飛び越えながら見た目より楽に登れました。山頂からは槍、笠、北アの連山が目に眩しい。太郎平までの3時間の沢の下りは手強かったです。昨日のスゴ小屋の混雑にうんざりしていたので、太郎小屋泊りはやめて折立まで下りる事に決定。立山行きの最終バスには間に合わないので折立までタクシーを呼んでもらい、折立までの3時間を駆け足で下りました。

 学生の頃は30Kの荷を背負って下ばかり見て歩いていたので花や景色を愛でる余裕などありませんでした。当会員の皆さんの花の知識の豊富さに驚ろかされました。

 長い間、山歩きを楽しんできましたが“山一筋”という訳ではなく、歩く以外に何の能力も無かった。要するにそういうことのようです。何とも芸のない事でした。