剱岳

広美

 六郷登山協会入会前、初めて石井スポーツで登山用品を買ったときにもらった手ぬぐいが剱岳との最初の出会い。「2999剱岳2019」の印字と共にかっこいい山容が描かれている。どこのどんな山なのか、そしてまさか四年後、会五十周年記念山行で山頂を目指すことになろうとはそのときは思いも寄らない。

 剱岳山行前日七月二八日午前七時、立山班、黒部班との再会を約束して室堂山荘から剱岳班も出発。雷鳥沢から新室堂乗越を経て別山乗越へ向かう。朝から日差しが強い。途中サービス心旺盛なライチョウや淡いピンク色がかわいいタテヤマチングルマに癒やされながらも、山行開始間もない緊張もあってかやたらと汗が出る。一一時一五分剱御前小舎着。剱岳と間近でのご対面を果たし、ほっとして食べたラーメンは格別だった。

 別山へも足を伸ばし、二時過ぎには剱澤小屋到着。どっしりと居座る剱岳に「岩と雪の殿堂」の立て看板が映える。夕方五時頃から小屋前で十人程のツアー客の方達がガイドさんとハーネスやヘルメットなどの装備の点検を始めた。思わず聞き耳を立てながら自分も装備の妄想点検。大丈夫、YouTubeの動画も何度も見たし、河川敷での壁面登りもやったぞ、と自分に言い聞かす。緊張感よりわくわく感が勝っているかな。

 翌二九日、剱岳へ出発の朝。当初四時半出発の予定をツアーの方達にならい、急遽四時に早めたのだが既に彼らの姿はない。暗がりの中、前方でヘッデンの灯りがちらちらと移動している。四時三五分剣山荘着。ここに荷物をデポしていくことで、身も心も一気に軽やかになった。ヘッデンは外し、装備を最終確認、まずは前剱を目指す。五時、朝焼けが美しい。無風、天気も問題なさそうだ。

 鎖場の鎖はどれもピカピカでがっちり打ち込まれている。「信じて登る」という小川さんの言葉を信じて登る。カラビナは使うほどに慣れてきた。鎖場を順番に通過し前剱着六時半。有名なカニのタテバイは傍目には怖いが、足の置き場をしっかり確保しここもなんとかクリア。順番待ちの間の落石に気を遣う。九時十分剱岳山頂着。やはり達成感は半端ない。祠に置かれたプレートの多さは人気の現れだろう。しばしパノラマビューを楽しみ、名残惜しいが、より慎重さを強いられる下山へ。岩との格闘はまだ終わらない。

 私が見たのは剱岳のほんの一部に過ぎないが、絶景を目の当たりにし、自分のちっぽけさを思った。そして自分も含めて「生半可な覚悟では登れない山」になぜあんな危険な思いをしてまで登るのだろう、といにしえの登山者達にも思いを馳せる。

 初北アルプスであり、もちろん初剱。記念すべき素晴らしい登山となったのは六郷登山協会の皆さんのおかげであることは言うまでもない。