黒森神社と登山協会
熊野神社宮司 熊谷 暁
二十年前にに書いた文章を再掲させていただきます。大事なことは変わっていません。 六郷町登山協会三十周年おめでとうございます。ナナカマドの実が真っ赤に色づき、彼方に鳥海山がくっきりと浮かぶ秋晴れの日曜日、黒森山に笛と太鼓の音が爽やかに響き渡りました。今年の黒森神社例祭において、六郷町登山協会三十周年を祝って、神前に刀舞が奉納されたのです。青空の下での御神楽に神々もさぞ喜ばれたことでしょう。
例年のように、今年も多くの善男善女が御参拝くださいました。三歳の幼児が傘寿を迎えた長老と一緒に登ってお参りできるのが、黒森神社の何よりもすばらしいところです。これも登山協会の皆さんが登山道を整備してくださっているおかげです。今年は、スポーツ少年団の子どもたちは町民の森の休憩所に泊まり、登山協会の方々は山頂で一夜を過ごされたそうです。私も数年前に皆さんと一緒に宵宮を山頂で夜籠もりさせてもらいました。寝袋を貸していただき、実に楽しい一夜でしたが、その夜、見知らぬ人たちが山頂にテントを張っていたので声をかけてみると、国土地理院から山頂の三角点を調べに来ていた方たちで、驚いたのでした。
黒森山は標高七六三メートルばかりですが、山頂から仙北平野、横手盆地が一望できます。まさに絶景で、ここに一等三角点が置かれているのもうなずけます。古人がこの頂で天に向かって祈願をした気持ちがよくわかります。日照りが続くと藁を背負って山頂に登り、祠の前で火を燃やして雨乞いをしたと古老が語り伝えていますので、つい数十年前まで続いていた風習だったようです。今でも頂上を掘ると燃え残った藁が出てきます。
毎年、黒森神社例祭にあわせて町民登山が実施されていますが、昭和五十四年、六郷町登山協会の皆さんが中心となって町民に呼びかけて浄財を募り、黒森神社のさや堂を新築してくださいました。会員の皆さんが労力奉仕で山頂まで材木をかつぎ登ったのです。鳥居も建立されました。さや堂は年々拡充され、現在では中でお祭りができるほどの広さの立派なものとなっています。数年前、例祭が無事に終わり、さて下山しようという時になって突然大粒の雹が降り出し、あっという間に一面真っ白になったことがありましたが、その時もさや堂があったので安心でした。本当にありがたいことです。
例祭をお勤めした後の山頂での昼食は実に気持ちがいいのですが、直会は黒森神社の里宮が安置されている侃諤舎で行われます。毎年、里宮をお祓いしてから山に登って例祭を執行し、再び山を下りて、文字通り侃々諤々(かんかんがくがく)と賑やかに反省会を行うのです。実に楽しい行事です。黒森山と黒森神社、そして町民登山の行事を大切に守り、しっかりと後世に伝えていきたいものです。