海が好き?山が好き?

磯部 京悦

 夏休みのレクレーション旅行と言うものが金屋にはあった。村の若妻会(婦人会の事で、決して若妻とは呼べない人も混じっていたが、とりあえずそう呼ばれていた)が企画して子供たちを日帰りのバス旅行に連れて行ってくれたのである。行き先は海水浴場一択である。距離的に近い象潟海水浴場が多かったが、少し足を伸ばして下浜海水浴場に行く事もあった。

 浮き輪につかまって海面にプカプカ浮かんで「波はどうしていつまでも止まらないのかな?」とか考えていた。時々大波がやってきて頭からかぶった。海の水は塩っぱかった。疲れて砂の上に寝転んでいると、砂が体に引っ付いて払うのに一苦労。海の家にシャワーが有ったが有料でビックリした。帰りのバスは家に帰りつくまで夢の中。そんな幼少時の記憶が刷り込まれてか、長じてからも海遊びする事が多かったように思う。

 まず大学に入ってからウィンドサーフィン(以下WSと略)なるハイカラな遊びを始めた。道具は高額だったが、3人で割り勘して何とか手に入れた。当時は規制も緩くて、秋田港と船越の間の海岸線でWS可能だったので程良い風の吹く晴天の日は授業をさぼってよく出かけた。多いときには10人くらいの人たちがWS遊びをしていた。最初はターンがなかなかうまくいかなかったが、風向きを理解するとうまくできるようになった。自転車に初めて乗れるようになる時と似ているなと思った。部活動はバスケットボール部に入っていたが、幸運にも最終学年の5年生の時、東北地区予選で準優勝して千葉県で開催される東日本医科大学体育大会に出場することが出来た。開園して間もないディズニーランドに部員みんなで出かけたのも楽しい思い出である。大会が終わってから、WS仲間でバスケ部員でもある親友のT・H君の山梨の実家にお邪魔して、河口湖でWSを楽しんできた。

 実はこの時富士山にも登って来た(背景の山が富士山)のだが、アスファルトの様な炭カラが敷き詰められた道を延々と登っていくのでウンザリした。眺めもあまり記憶に残っていない。

 WS仲間も卒業してからは別々の道を歩みWS遊びは自然消滅した。そんな折、秋田市内の病院に勤務していた時、土崎にスキューバダイビング(以下SDと略)の免許が取れるショップがあると聞いて行ってみた。インストラクターのご夫婦も気さくな人柄で、集まってくる人たちもユニークな人が多くて、今度はこの趣味にのめりこんだ。

 SDは体力的にはとても楽なスポーツである。浮力を調節して、潮の流れに身を任せているだけでとても興味深い自然現象を見ることが出来る。例えば、男鹿の戸賀湾。ここは浅いのに多種類の魚を見ることが出来るのでよく潜った。黒鯛はとてもダジャグな(荒々しい)魚で、周囲の魚たちを蹴散らして自分の縄張りを守っていた。反対に真鯛はとても慎重な魚で、少しでもダイバーの気配を感じると自分の隠れ家にサッと戻ってしまう。海釣りを趣味とする友人が「真鯛釣りはとても難しい」と言っていたが、ナルホドと思った。ダツと言う魚も見かけた。サンマの口先をビローンと伸ばした様な魚で、英名はニードルフィッシュ(針の魚)。光るものに向かって突撃してくる習性があるので、夜にSDしている人が時々突き刺されると言う危険な魚である。寿司屋では珍重されているらしいが・・・。

 SD仲間のKさんとはとてもウマが合って、よくSDをご一緒した。3人でバリ島にも行った。バリ島はダイビングも面白かったが、環境・文化がとても興味深かった。観光地を少し離れると日本の棚田のような風景が広がり、食べ物も、ナシ・ゴレン(炒飯)、ミー・ゴレン(焼きそば)、サテ・アヤム(焼き鳥)おまけにアラックと言う焼酎のような酒もあった(当然しこたま飲んで酔っ払った)。登山と同じように潜った後には、バリ島の温泉に入って寛いだ。やたら広いプールのような温泉であった。

 SDは非常に面白い奥深い趣味で、出来れば続けたかったが、開業した時に入った生命保険では危険なスポーツと見做されて禁止されてしまった。しょうがないのでオーディオ機器をヤフオクで買い漁ると言うインドアでセコい趣味をして10年以上過ごした。そうこうしている内 5年ほど前、現在の山登りの師匠と出会った。最初はオーディオ趣味がキッカケであった。師匠はオーディオの他に登山も昔からやっていた(むしろ登山が主)と聞き、3年ほど前栗駒山(須川岳)に一緒に山行させてもらったのだが、この時、自分の体力があまりにも低下している事に気付き愕然としてしまった。以降、体力回復を目的に、登山を始めてインドアからアウトドアに戻ってきたという次第である。因果の糸車の回転は早く、さらに1年後には横手病院のIT化の為に共に頑張った同志 小川実さんとも出会い六郷登山協会にかでて(参加させて)頂いて現在に至っている。

 今では 磯部(海の人)は山部(山の人)に変わりつつあります。六郷登山協会の皆様 どうぞ今後ともご指導・ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。